湿り空気と空気線図




湿り空気

水分を含んでいる空気のことを「湿り空気」と呼びます。
これに対して、まったく水分を含まない空気を「乾き空気」といいます。


空気線図

空気線図(Psychrometric Chart)」とは、湿り空気がいろいろな状態にあるときのポイント 状態点)を、
二次元座標にプロットしてチャートにしたものです。
いろいろな種類がありますが、ごく一般に空気線図というとき、
それは、「湿り空気h-x線図」を示します。



上の画像は、エクセル空気線図が使用しているh-x線図です。
なぜh-x線図というかといえば、hとxを座標軸としているからです。
(画像にマウスカーソルをのせてみてください)
hとは比エンタルピ[kJ/kg(DA)]で、空気の持っている熱量を示し、
xとは絶対湿度[kg/kg(DA)]で乾き空気1[kg]に含まれている水分の重さ[kg]を示します。
単位の末尾に(DA)と書いているのは乾き空気(Dry Air)を基準にしていることを意味します。
左上から右下に向かって実線で描かれている線はh一定の線、
水平に引かれている線がx一定の線です。
奇妙なことに、座標軸が斜めに交わっているのですね。このような座標のことを斜交座標といいます。
ではなぜ斜交座標なのでしょう。


乾球温度と湿球温度

ふつう私たちが「気温」というとき、それは乾球温度[℃]を示します。
乾球温度は普通の温度計で測った空気の温度です。
皆様は小学生のころ、「百葉箱」の中をのぞいたことがありますか?
「百葉箱」の中には、普通の温度計のほかに、
温度計のお尻に濡れたガーゼを巻きつけてあるものがありませんでしたか?
あれは何を測っているかといえば、湿球温度[℃]なんです。
温度計の湿ったお尻(球)の温度です。
湿球温度というのは、水が自然に蒸発していくときにそれに触れている温度計が示す温度です。
もちろん、ちゃんと測るときはもっと精巧にできた測定器を使用しますが・・・


比エンタルピ

完全な乾き空気は、普通私たちのまわりにはありませんが、
空気のことを調べていくときにはまずここからスタートしないと良くわかりません。
実は比エンタルピの「比」というのは、「何かに比べた」という意味なんです。
その「何か」とは0[℃]の乾き空気が持っている熱量です。
比エンタルピの定義は以下のとおり。

h=Cpa・t+(Cpw・t+r0)・x ・・・(1)
h;比エンタルピ[kJ/kg(DA)]、
Cpa;乾き空気の定圧比熱[kJ/kg・K]、Cpw;水蒸気の定圧比熱[kJ/kg・K]、
t;乾球温度[℃]、r0;0[℃]のときの水の蒸発熱[kJ/kg]、x;絶対湿度[kg/kg(DA)]


水のこと

ここで、少しだけ水について考えましょう。
水は私たちの生活空間の中で、3つの姿を見せてくれますね。
もちろん最初は「水」、そしてうんと冷やしていくと「氷」になり、
ほおっておけば蒸発して「水蒸気」になります。
水は0.01[℃]のとき、この3つの姿をそれぞれ同時に持つことができます。
この温度0.01[℃]の状態を示す点のことを「水の三重点」と呼びます。
0[℃]よりちょっとだけずれているんです。


飽和水蒸気圧

乾き空気にどんどん、どんどん、水を蒸発させていくと、あるところで限界になります。
つまり、それ以上水を含むことができなくなるのです。
このときの、水蒸気の圧力は、温度によって一定です。この圧力を「飽和水蒸気圧」といいます。
実は湿り空気はとても複雑な性質を持っていて、その状態を簡単に計算することができません。
それでも何か確たるものがなければ先に進まないのですが、
この飽和水蒸気圧が温度によって一意的に決まるという性質こそが、
湿り空気を解き明かしていく上での最初の手がかりになってくれます。


ウェクスラー - ハイランドの式

飽和水蒸気圧が温度によって決まるのなら、そこには当然関係式があるはずです。
ゴフ - グラッチ(Goff-Gratch)の式など、過去にその関係式がいくつか考えられましたが、
現在最も有力なのが、
ウェクスラー - ハイランド(Wexler-Hyland)の式
と呼ばれるものです。
いくつかのサイトで紹介されているようですが、
もう一度「ウェクスラー - ハイランドの式」を確認しましょう。

水と接するとき(0.01[℃]以上)
ln(103Ps)
=-0.58002206×104/Tab
+0.13914993×10
-0.48640239×10-1Tab
+0.41764768×10-4Tab2
-0.14452093×10-7Tab3
+0.65459673×10 ln(Tab) ・・・・(2.1)

氷と接するとき(0.01[℃]以下)
ln(103Ps)
=-0.56745359×104/Tab
+0.63925247×10
-0.96778430×10-2Tab
+0.62215701×10-6Tab2
+0.20747825×10-8Tab3
-0.94840240×10-12Tab4
+0.41635019×10 ln(Tab) ・・・(2.2)

ここにPs;飽和水蒸気圧[kPa]、Tab=絶対温度[K](=セルシウス温度+273.15)

上の式をPsについて解くと、 Ps=[exp{-0.58002206×104/Tab+・・・・・}]×10-3
という形になりますが、それよりもエクセル湿り空気をお使いください。
飽和水蒸気圧の計算関数をはじめ、エクセル湿り空気は多くの関数をフリーソフトとして公開しています。
また、エクセル空気線図にはエクセル湿り空気を標準添付しています。


相対湿度

「飽和水蒸気圧」なんて言葉は知らなくても「相対湿度」ならご存知でしょうか。
実はこの「相対湿度」とは、水蒸気分圧/飽和水蒸気圧 ×100[%]なのです。
ここで水蒸気分圧というのは、読んで字のごとく水蒸気の分の圧力です。
つまり、水蒸気分圧=飽和水蒸気圧のときが相対湿度=100[%]で、
この状態の空気のことを「飽和空気」といいます。
また、湿り空気が「飽和空気」の状態にあるとき、乾球温度=湿球温度になります。
これはちょっと考えればわかることで、飽和してるときは、水がもうこれ以上蒸発しないのですから、
温度計のお尻が濡れていようがいまいが、同じことになるからですね。


絶対湿度

実際にはもっともっと複雑なのですが、ここである程度の精度を持った式をご紹介します。

x=0.62198×Pw/(P-Pw) ・・・(3)
x;絶対湿度[kg/kg(DA)]、Pw;水蒸気分圧[kPa]、P;空気の全圧[kPa]

ここでPは、普通は海抜0mの大気圧(101.325[kPa])で計算します。

さあ、ここでようやく空気線図の話に戻ります。
h-x線図がなぜ斜交座標なのか・・・でしたね。

(1)、(2)、(3)式をご覧いただくとお分かりと思いますが、(代数的な細かい話は省略します)
乾球温度 t [℃] を座標軸にして t の線を平行に引くと、比エンタルピの線が平行でなくなります
空気線図の大きな使用目的のひとつである「熱量の変化を求める」という観点からすると、
熱量すなわち比エンタルピを示す線が平行でないのは非常に具合が悪いのです。
でも直感しやすいのは乾球温度。 それでこのような特殊な座標系になったのではないかと思われます。


h-x線図における乾球温度ラインの傾き

少々目が痛いかもしれませんが、
もう一度このページの冒頭にある空気線図を目を凝らしてじっくり眺めてください。
(画像をクリックするとわかりやすいかもしれません)
なになに、乾球温度一定の線が傾いている・・・コリャ印刷ミス、ならぬ描画ミス?
実はh-x線図はどうしてもこうなってしまうのです。
代数的な細かい話は省略しますが、結論だけ申し上げれば、
絶対湿度の値が大きくなると、直交座標上の乾球温度の目盛りは広がっていくのです。
h-x線図は普通、これは紙面の節約という意味からでしょうが、
右端の乾球温度一定の線がx一定の線に直交するように描かれます。
その結果、乾球温度が低くなればなるほど、
乾球温度一定の線は、ピサの斜塔のごとく左に傾くことになります。


h-x線図のおさらい

冒頭にある空気線図の水平に引かれているのは絶対湿度、
左上から右下に引かれているのが比エンタルピ、
縦に伸びているのが乾球温度、そして美しい曲線を描いているのは相対湿度のラインです。
これが空気線図の基本ですが、
そのほかに、湿球温度、比体積、飽和度など必要に応じてそのラインが描かれます。


h-x線図上における変化のプロセスまたは状態線

h-x線図上で空気がある勾配をもって変化するときの様子を示したものを「状態線」といいますが、
いくつかの状態線もしくは状態変化のプロセスについて簡単にご説明しましょう。


上の画像はエクセル湿り空気の状態関数を用いて状態点または状態線をプロットし、
必要部分を切り取ったものです。
この画像をご覧頂きながら、代表的なパターンについてご説明しましょう。

【水分量(絶対湿度)の変化を伴わない温度変化 @→A(A')】
このような変化のことを、「顕熱変化」といいますが、たとえばある状態の空気を単純にヒーターで暖めると
その状態点は、絶対湿度一定で乾球温度だけが上がりますので、そのプロセスを示す線は水平になります。

さて、冬場、風邪をひきやすい方、加湿器がないなら、暖房を少し控えめにしてみてください。
たとえば東京では、真冬の外気が0[℃]、50[%]程度になることがありますが、
(冒頭の空気線図で0[℃]、50[%]の状態点がどこであるかお分かりでしょうか?)
この状態から26[℃]まで温度を上げると、相対湿度は約9[%]まで下がります。
もし、18[℃]で我慢すれば、相対湿度は約15[%]。
相対湿度の値が大きいと、水分が蒸発しにくくなりますので、のどがからからになりにくくなります。
とかく風邪をひきやすいと、暖房をめいっぱいきかせたくなりますが、
これはある意味では逆効果になってしまいます。

【水分量(絶対湿度)の変化を伴う温度変化 C→D】
ある状態の空気を冷やしていくと、やがて相対湿度が100[%]のラインに交わります。
これは飽和空気の状態を示し、それ以上まっすぐ左には行けなくなります。
このときの温度を「露点温度」といいますが、
実際に冷却装置で冷却するときは、相対湿度が95[%]程度のところで限界になり、
今度は相対湿度一定のラインにそって左下に下りていきます。
このとき冷却装置の内部では水蒸気がどんどん水になって滴り落ちていきます。
水蒸気が水になれば、空気中の水分量は減少しますので空気は乾燥していきます。
そこでこのような動きを受動的に「減湿」、能動的に「除湿」等といいます。
ここで単純に水平方向に変化する場合と、
減湿を伴う変化の場合の比エンタルピの変化量に注目してください。
そうです。減湿を伴う変化が起きると、エンタルピ、すなわち空気の熱量は大きく変化するのです。
これは、同じ温度の変化なら、たいてい暖房よりも冷房のときのほうがエンタルピの変化が大きい、
つまりエネルギーの変化量が大きいということです。
別の言い方をすれば、冷房をするときの消費エネルギーは非常に大きいのです。
特に夏暑い日、外気(冷房していない外の空気)が多く入りこんでくる場合、
冷房をするときの温度を1[℃]上げるだけで、
それにかかわるエネルギーの消費量が大幅に減る
わけです。
青く美しい地球を大切にするためにも、冷房の温度には気をつけたいですね。
なお、「結露」という言葉がありますが、
これは湿り空気がその露点温度よりも低いものに接し、
(あるいは自然に温度が下がって露点温度以下になり)
水蒸気が凝縮して水になるために起こる現象で、
そのプロセスは、上記の「減湿」と同じものです。

暑い夏の日、ビールやアイスコーヒーを注いだグラスの表面にうっすらとついた白い水滴が涼しそうですね。
これも、グラスの表面で湿り空気が冷却されて結露した結果です。

【水で加湿をするときの変化 A'→B】
ここから先はかなり専門的ですので、結論だけ申し上げます。
まずは、h-x線図上ではある熱水分比(比エンタルピの変化量/絶対湿度の変化量)による状態線は、
その起点によらず一定の傾きをもっている
ということを知っておいてください。
(これも代数的に明らかにすることができますが、ここでは省略します。)
水で加湿をするときの変化を示す状態線は、湿球温度一定の線上にあります。
別の言い方をすると、湿球温度が与える熱水分比によって決められる熱水分比一定の状態線になります。
このときの熱水分比は以下のとおり

水と接するとき、つまり温度計のお尻のガーゼが凍っていないとき(0.01[℃]以上)
u=Cw・t'
氷と接するとき(0.01[℃]以下)
u=-rc+Cc・t'
ここに
t';湿球温度[℃]
u;水加湿をするときのt'により決まる熱水分比[kJ/kg]
Cw;水の比熱[kJ/kg・K]、Cc;氷の比熱[kJ/kg・K]、rc;氷の融解熱[kJ/kg]

【蒸気で加湿をするときの変化 A→B】
加湿する蒸気の比エンタルピを熱水分比とする熱水分比一定の状態線になります。

水で加湿をすると(たとえば家庭用の超音波加湿器など)、温度は下がります。
ところが蒸気で加湿をすると、普通、少しだけ温度が上がります。
昔の人は、火の上にやかんを置いて加湿していましたが、とても良い加湿方法を用いていたのですね。
(安全上、火の上にやかんなどを置くことはお勧めできませんが)

【冷房時の室内の温湿度変化 D→E】
SHF(顕熱比=Sensible Heat Factor)と呼ばれる比率が与える熱水分比によって決められる、
熱水分比一定の状態線になります。
ちなみに、SHFの定義は以下のとおり。

SHF=顕熱/(顕熱+潜熱)

さらにSHFとほかのファクターの関係は
SHF=Cpa・冲/冑=1-(r0+Cpw・冲)/u

顕熱;乾き空気の温度変化による熱量
潜熱;水の蒸発および温度変化による熱量
冲;温度の変化量[K]、冑;比エンタルピの変化量[kJ/kg(DA)]、u;SHFがある値のときの熱水分比[kJ/kg]


状態点の計算

h-x線図は二次元座標に描かれたチャートです。
理論的には、ある2要素が決まればその状態点は決まります。
しかしながら、湿り空気はそう単純なものではなく、
仮にそれがボイル−シャルルの法則に従う、
理想気体としての乾き空気と水蒸気の混合気体であったとしても、
そのすべての関係式が代数的に与えられているわけではありません。

どうしても近似計算が必要になります。
そこで登場するのがコンピューターです。
コンピューターで効率よく近似計算をする手法には、
1.二分法
2.ニュートン - ラフソン法
などがあります。コンピュータを用いた近似計算に関しては、
詳しく解説されているサイトがいくつもありますので省略します。
コンピューターが十分高速化している今、湿り空気の状態点の計算には、二分法が適しています。


自然界にあるものはやはり美しい

湿り空気h-x線図は、私たちを取り巻いている「潤いある空気」を視覚的にあらわしたものですが、
結果的に、そこに描かれた相対湿度のラインはなんとも美しく、
ここでもまた、自然界に存在するものの美しさを再確認できるのではないでしょうか。






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