ここでは、エクセル負荷計算に添付されている、「小規模工場例題入力データブック.xlsx」の
一部をアレンジしなおし、様々なシステム条件に対する、温湿度などのチェックをしてみましょう。

内部ヒータ加熱、除湿なしとした場合 まず「各室熱負荷入力シート一覧表」を、わかりやすいよう、対象の部屋以外は消して、以下のように
「事務室」、「更衣室(M)」、「更衣室(F)」、「展示スペース」のみとし、
すべての部屋を1台のエアーハンドリングユニット「AC-2」で空調するものとします。

また、この建物の周囲、杉の木が群生していて、事務室の中が花粉だらけになるので、 除塵効果を高めるため、「事務室」の換気回数を空調必要風量よりも大きくなる15[回/h]としておきます。

さらに、「AC-2」の系統別条件表のシステム構成を以下のように設定しておきます。

この状態で計算書作成ウィザードを実行します。
さて、出力された計算書の「AC-2系統熱負荷集計および風量一覧表」の風量欄と欄外の実際の温湿度の欄を切り取って見てみましょう。
実際に出力された計算書はこちら⇒nondehumi.xlsx

ここで、「事務室の」の空調必要風量よりも換気回数による風量が大きくなるはずが、ほぼ等しく、2,320[m3/h]と2,310[m3/h]になっています。(10の違いは空調風量計算時の端数調整による誤差) これはなぜでしょう。条件設定をご確認ください。「除湿制御なし」になっていますね。 つまり、この場合、換気回数による風量が大きかったために、その風量に合わせて⊿tを小さくした結果です。 こうなると、冷房時の設計温湿度から引いたSHFの状態線が冷却コイル出口相対湿度95[%]のラインに到達せず、相対湿度が上昇してしまいます。 空気線図を見てみると、オレンジ色の相対湿度50[%]ラインよりも部屋の相対湿度が上がっているのが確認できます。
内部ヒータ加熱、除湿ありとした場合 実際問題として、この程度の湿度上昇であれば、事務室なら問題ないでしょう。
ここでは、この工場のオーナーが温湿度にうるさい方で、湿度上昇を問題視しているものとします。
そこで、「AC-2」の系統別条件表のシステム構成を以下のように設定してみます。

すなわち、「除湿制御あり」にしたわけですが、このようにすると、空調機内部に再熱ヒータが組み込まれます。 出力された計算書の「AC-2系統熱負荷集計および風量一覧表」の風量欄と欄外の実際の温湿度の欄を切り取って見てみます。
実際に出力された計算書はこちら⇒dehumi.xlsx
今度は「事務室の」の空調必要風量は1,840[m3/h]、換気回数による風量は2,310[m3/h]になっています。 「除湿制御あり」にすると、全風量冷却除湿方式の場合、空調空気のすべてを一度露点温度まで下げるため、換気回数による風量によらず⊿tは一定です。 各室の相対湿度は「除湿制御なし」の場合より全体として下がっています。その加重平均がリターンエアーの相対湿度になるわけですが、 空気線図を見てみると、リターンエアーの状態点はオレンジ色の相対湿度50[%]ライン上にぴったりとプロットされています。

ところでこの空気線図、冷却コイル出口付近にたくさんの状態点がプロットされていますね。 簡単にご説明すると、③は冷却コイル出口、④は空調必要風量を計算する際に用いる⊿tを決定するための点、 ⑤は空調必要風量よりも換気回数による風量が大きいために再熱ヒータが常に再熱しなければならない点、⑥はファン、ダクト系の摩擦熱分が上昇したのち、部屋に吹出される空気です。 さて、ここで問題となるのは事務室の乾球温度です。冷房時は25.1[℃]で冷え性の女性スタッフには少しつらい感じ、 暖房時は25.7[℃]で暖かすぎで部長さんが居眠りをする可能性大です。これはまずいですね。
内部ヒータ加熱、除湿ありとし、事務室にルームサーモを設置した場合 事務室の温度がやや問題になりました。そもそも上の2例はリターンエアー温度制御としているために各室の温湿度がバラバラなのです。
そこで今度は事務室にルームサーモを設置して、事務室の温度を優先的にコントロールしてみましょう。
まず「各室熱負荷入力シート一覧表」の事務室のサーモ設置欄に、以下のように「1」を記入します。

出力された計算書の「AC-2系統熱負荷集計および風量一覧表」の風量欄と欄外の実際の温湿度の欄を切り取って見てみます。
実際に出力された計算書はこちら⇒dehumi_thermo.xlsx
今度は事務室の温湿度はほぼ設計値通りですので、
部長さんも居眠りはしないと思われますが、そのほかの部屋の温湿度が深刻に外れていますね。
特に展示スペースはパブリックスペースで、見学者の方もおみえになるため、まずいパターンです。
空気線図を見ると、強制的に事務室のサーモでコントロールしたため、リターンエアーのポイントもずれています。
更衣室などの暖房時の乾球温度は16[℃]になっていますが、これはエクセル負荷計算が限界としている値です。
すなわち、設計値から温度が外れた場合の限界値は、その部屋自身の隣室温度差係数(指定がない場合は0.3)から逆算した温度です。
この例では外気温度が2[℃]、部屋の設計温度が22[℃]ですから、限界値は22[℃]-(22[K]-2[K])×0.3=16[℃]となったわけです。

ターミナルヒータ加熱、除湿ありとし、事務室と展示スペースにルームサーモを設置した場合 事務室以外の部屋がNGなので、さらにバブリーな仕様にしましょう。
「AC-2」の系統別条件表のシステム構成を以下のようにバブリー仕様に設定してみます。

さらに「各室熱負荷入力シート一覧表」の展示スペースのサーモ設置欄にも、以下のように「1」を記入します。

出力された計算書の「AC-2系統熱負荷集計および風量一覧表」の風量欄と欄外の実際の温湿度の欄を切り取って見てみます。
実際に出力された計算書はこちら⇒th_thermo.xlsx
おお、さすがバブリー仕様!いかがでしょう、更衣室以外はほぼいいではありませんか。
分離形ドライコイルシステム ここまでバブリーな仕様にしたのに、オーナーから見れば大したメリットもないですよね、このシステム。
まず「各室熱負荷入力シート一覧表」を、下記のように変えてしまいましょう。

ルームサーモの代わりに各ドライコイルユニットのボディーサーモを使用します。つまり、ドライコイルユニットごとのリターンエアー温度制御とするわけです。 そして、「AC-2」の系統別条件表のシステム構成を以下のように設定します。

計算書作成ウィザードを実行し、さて、出力された計算書を見てみます。
実際に出力された計算書はこちら⇒sepdrycoilsysa.xlsx

更衣室が暖房時に少々寒いようですが、更衣室は長居はしませんからいいでしょう。 一応、空気線図も確認しておきます。
うーん、外気冷却コイルの出口温度が低いですね。でも装置露点温度で11[℃]ぐらいですから、冷水供給温度7[℃]でもいけそうです。
デシカント方式分離形ドライコイルシステム ところでこの工場、エネルギーセンターがあり、コジェネ排ガスボイラーがあったのです。
蒸気はふんだんにありますから、蒸気を再生熱源にしてデシカント方式の外気処理ユニットを使ってみましょう。
「AC-2」の系統別条件表を以下のように設定します。

デシカントにすると、いろいろと設定項目が増えますが、わからないところは規定値のままにしておきます。
まず最初に設定しなければならないのは、デシカント空調機のシステム構成です。

一般的な構成のデシカント空調機では、再生熱が処理外気側にフィードバックされるため、 再生温度がおおむね50[℃]以上の場合は、デシカントローターの下流(負荷)側に顕熱交換機を用いるとエネルギーロスが少なくなります。 全熱交換機ではなく顕熱交換機を用いるのは、ラデック(注1)などの特殊な構造を持つ場合は別ですが、一般的な構成の場合、 全熱交換機を用いると、せっかく除湿した処理外気が、室内からの余剰排気により再び加湿されてしまうからです。 次に設定しなければならないのは、デシカントシステムの冷房時設計基準です。

エクセル負荷計算では、デシカントの設計を行う場合、「再生温度基準」、「予冷コイル出口温度基準」、「常温再生」の3つの方法を選択できます。 ビル空調においてデシカントを使用する主な目的は、予冷コイルを含めたすべての冷却コイルの装置露点温度を上げることにより冷水の供給温度を上げ、 結果的に冷凍機のCOPを上げることです。したがって、装置露点温度をにらみながら予冷コイル出口温度を決めてから設計することが望まれます。 しかしながら、ヒートポンプの温水を再生用熱源とする場合は、その温度には上限があるため、 再生温度から予冷コイル出口温度を逆算しなければならない場合があります。 さらに、再生熱源がない場合又は再生熱のフィードバックを嫌う場合は、余剰排気を加熱しないでそのまま再生空気として使用する常温再生とします。 常温再生の場合、予冷コイル出口温度の劇的な上昇は望めませんが、実際に計算してみると、意外に良い結果が得られることがわかります。
さあ、それでは・・・計算書作成ウィザードを実行!!!
さて、出力された計算書・・・
実際に出力された計算書はこちら⇒desiccant.xlsx

このシステムは、外気をドライコイルユニットごとにまとめて供給してから吹出すため、更衣室などの温度も平均化されてちょうどよい感じになっています。 さて、空気線図はかなり複雑です。
予冷コイル出口温度は18[℃]で設計しましたので、チラーユニットは9[℃]→14[℃]で運転しても余裕で行けそうです。 このときのチラーユニットのCOPは、7[℃]→12[℃]運転時の10%増しで、再生温度も60[℃]以下と低めなので、ロスは小さめです。 ところでこの空気線図、細かくて見にくいですよね。再生コイル出口温度に合わせて乾球温度のレンジを-10[℃]→66[℃]とした線図を用いたためです。 再生温度がさらに高い場合は-10[℃]→80[℃]の線図になる場合があります。
結論 一応これで温湿度も大丈夫だし、低CO2にもなったことだし、ソリューション!!!・・・。
今回使用した入力データはこちら⇒hlsdata_fromfactory.xlsx

「随分といろいろな検討をしてくれましたね。ご苦労さん。でもね、こういうの、無駄な努力っていうんですよ。 そもそも更衣室と展示スペースを同じユニットで空調したらだめですよ、特にあなたみたいにいつもギョーザ臭い人が着替えてたらどうしますか。 私なら、初めからビルマルにしておいて、BICで空気清浄機を2、3台買ってきて置いておきますね。 そうすれば、事務室の換気回数なんて増やさなくてもいいし、相対湿度もおおむね50[%]ぐらいにはなりますよ、はい論破。」
無駄な努力はやめてエクセル負荷計算のページに



注1 ラデックは昭和鉄工株式会社が開発したデシカント方式です。